新しい〈帝国〉の誕生 3
経済誌のトレンド観測ほど、振り返ったときにバカバカしく見えるものは、まずないだろう。例えばほんのちょっと前までは、ユニクロ、マクドナルド、スターバックスなどを「勝ち組」と称揚し、その手法とマーケティング能力について経済誌がこぞって事細かに分析していたのは、我々の記憶に新しい。
しかしこれらの企業は現在、どれも苦戦を強いられている。「山高ければ、谷深し」という言葉のとおり、流行は常に極端な凋落を迎えるものなのだから。
経済誌は、自らが持ち上げた企業についての省察や自戒は決してしない。また新たなトレンドを見つけだし、あたかもそれがどの企業にとっても必要なビジネス・モデルなのだと声高に叫びまわるだけだ。
だとしたら、この超資本主義社会の中で安定したビジネスをし続けてゆくということは、なんて困難なことなのだろうか。そんな中、アメリカ〈帝国〉を中心とした金融ビジネス・ルールの策定団体であるWTOやIMFなどの強圧的な方策がさらに、これまでの安定した企業活動をおびやかしている。
それは世界中を巻き込んだビジネス・ゲームとして、各国の農業や地場産業を壊滅させ、地域経済を麻痺させているのだ。我々は知らぬ間に投機的なビジネス・ゲームに足下を巣くわれてしまい、生き残るためにしかたなく〈帝国〉の思惑に従わされているのが現状だ。
これらアメリカ〈帝国〉のグローバル化に異議を唱え、抗議活動をする英雄がいる。その名はジョゼ・ボベ。1999年8月、グローバリズムの象徴としてのマクドナルドを破壊し逮捕されたことで、一躍世界中に知れ渡った男。
フランス・ボルドーに生まれ、1971年から南部ミヨーで開拓農民をし、87年に中小農家組合「農民同盟」を設立。マクドナルドを襲撃したきっかけは、欧州連合(EU)による米ホルモン肥育牛肉の輸入禁止に対抗して、米国がEU産チーズなどを輸入禁止にする制裁措置を取った問題に端を発した。
マクドナルドは以前から、その機械的で劣悪な労働環境や、スピードや効率を求めすぎる結果として糞尿が混じった製品が混入されていると指摘されている。
他にも世界中で消費される莫大な数の牛を育てるためにアマゾンなどの森林を加速度的に破壊し、またハッピーセットに付くオモチャを生産する中国などアジアの子どもたちが、1日15時間以上もの違法労働を強いられ、学校にも通えない状況を作り出しているとして、環境保護団体や人権NPOなどによる抗議の矢面に立たされていたりする。
スローフード復権の流れの中で世界各国の食文化を見直す人たちからも、香料と人口調味料に毒されたカロリーだけの固まりであるハンバーガーを排除しようとする動きに囲まれてきている。
確かに世界中どこでも同じ味、同じ規格の商品が流通しているというのは不気味なことだ。だからジョゼ・ボベがそんな〈帝国〉的マクドナルドを襲撃したときも、アメリカ以外の国のメディアの多くは、批判的というよりも同情的な報道姿勢を取った。
ジョゼ・ボベはその後も「フォアグラの国にホルモン肥育牛肉はいらない」というスローガンを掲げ、それに賛同した農民らがフランス全国約百カ所のマクドナルドで店内に肥料をまくなど「闘争」を拡大し、ボベ自身は同年アメリカ・シアトルでのWTOに対する数万人規模の抗議デモに参加し、「新しいフランス農民」として人気を集めることになった。
ボベはまたマクドナルド破壊の他、研究施設や民間農場で育成していた遺伝子組み換え作物を引き抜き捨てた事件などでも罪に問われ、裁判にかけられたが、死者1人を出したイタリアのジェノバ・サミットでの反対デモにも参加。反グローバル化運動を決して諦めない姿勢は、農民を中心とした世界中の人々から熱狂的な指示を集めている。
なぜジョゼ・ボベは、これほどまでになってグローバリズムと戦うのか?
彼の主張はこうだ!
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つまり、グローバリズムというものは、一部の者だけが途方もない上前をはねる『支配の論理』だからだ。グローバル化のおけげで金持ちになったアフリカ人やイスラム教徒はいないし、フランスにせよ日本にせよ農業は先細るばかりだ。
今や世界の三富豪の所得が、貧困に苦しむ45ヶ国の歳入合計を上回る。グローバル化というのは貧富の差を広げるばかりなのだ。
またWTOが行っているのは、農民による農業を破壊して、多国籍企業のアグリビジネスだけが生き残れる道を作ること。
さまざまな国独自の農業のやり方を押しつぶし、すべてがアメリカ〈帝国〉の保護主義のために展開されてしまっているということ。
だからこそ、世界中で多くの人々が立ち上がり、WTOの支配の論理、商業化の論理に立ち向かっていかなければならなく、こうした流れを提唱することは、もはや単なる選択の問題ではなく、義務の問題になっているということ。
誰の物でもないはずの水までもが商品として独占化されつつある現在、WTOは巨大な製薬メーカーや農業メジャーなどによって、人間のゲノムを特許化し私物化するにとどまらず、生物種の多様性もでもを独占させようとしているということ。
つまり遺伝子組み換え作物に対する特許を通じて、世界中すべての種子管理を牛耳ろうとしているということ。従来は農民が自分で収穫し、またその種を蒔くということを行ってきたわけだが、特許があるがために、農民はもはや自分の畑で収穫した種子ですら翌年に蒔くことが出来なくなり、もし蒔いてしまえば特許侵害として莫大な損害賠償請求をされてしまうということ。
これはアメリカ〈帝国〉的な全体主義的農業以外の何物でもないということ。
そしてこのことは、我々が世界中で何千年と続けてきた自然への関与や農業、あるいは食文化に対して壊滅的な問題を引き起こしているということ。
だからこそ〈帝国〉と、その取り巻きであるWTOに闘いを挑まなければならない。しかしこの闘いは武器を用いてはならず、我々の闘いは弱者の武器である非暴力、つまり連帯を通して公正な世界を作りあげなければならないのだ、と。
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みなさんはこの意見にどう思われるだろうか? 賛同するにせよしないにせよ、上記の事柄が、我々自らの問題であることは疑いの余地がない、とだけは言えるだろう。
最後にジョゼ・ボベのこんなコメントを紹介して終わりにしたい。「権利を守るために時には司法と対立することだってありうる。法律に触れることだってありうる。ならば、私たちの手で法律を変える運動をしよう。敗北とは闘わないことだ。一人一人の小さな闘いをつないで大きくしていこう。希望をグローバル化するために、闘いをグローバル化しよう!」
Category : 政治 |
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