新しい〈帝国〉の誕生 1
国際世論が戦争反対のうねりを大きくする中、3月20日、ついにアメリカによるイラク攻撃が始まった。この文章が活字となった時点では、攻撃は夢の跡となって、「戦後処理方法」について語られていることだろう。
しかし、まず始めに断定されるべきことは、「これは決して戦争ではない」ということだ。国連決議や国際法に遵守した戦争手続きが取られていないだけでなく、石油・軍事利権にまみれたブッシュ政権による巨大なテロルなのだ。
だからここではメディアが呼ぶように、「イラク戦争」とは言わない。これはアメリカとそれに追随する国家による「イラク攻撃」である。
12年前の湾岸戦争においては、約30ヶ国が多国籍軍に加わり、世界中が戦争支持を表明したが、今回のイラク攻撃においては、作戦遂行に加わったのはアメリカ・イギリス、そしてオーストラリアのみであった。
湾岸戦争の多国籍軍に加わったサウジアラビアやエジプト、シリアといった中東諸国の名前は今攻撃の支持国リストには見当たらない。これはいったい何を意味するだろうか?
ブッシュ政権の事実上の最高実力者であるディック・チェイニー副大統領は、テレビ・インタビューにおいて、「9・11で世界は変わった。その変化が世界は分かっていないのだ」と語ったが、これもまたいったい何を意味するだろうか?
同時テロの悪夢がアメリカに与えた衝撃は想像に難くないが、それとイラク攻撃を結びつける理由はまったく見当たらない。先のインタビューでチェイニー副大統領は、「国連やNATO(北大西洋条約機構)は21世紀の脅威に対処できない」とし、アメリカ主導による「自由主義諸国連合」の到来を予告する。しかしこの構想は、アメリカ〈帝国〉を宣誓するものでもあるだろう。
今思い出すべきは、1950年の朝鮮戦争時のことだ。当時の大統領トルーマンは、政権内で検討されていた冷戦政策を、強硬すぎるとして抑制していたが、朝鮮戦争が始まってしまい強硬路線が現実化してしまうと、アメリカとソ連の軍事化競争は熾烈を極めることになってしまった。
ブッシュによる「悪の枢軸」演説は、トルーマン・ドクトリンを現代において誤って敷衍し、世界編成の再定義を独断で行っているのだ。アメリカの敵は「悪の枢軸」と名指しされたイラク・イラン、そして北朝鮮を始めとした「ならず者国家」であり、それらと結託した国際テロ組織であるとして、今回のイラク攻撃を、先制攻撃をも含めた安全保障戦略の一環として自己肯定しているのだ。
世界の国々は、1648年のウェストファリア条約以降、主権独立国家の不可侵性と内政不干渉を基本原理としてきた。今回のイラク攻撃は、その長い歴史を覆し、アメリカという新たな〈帝国〉が、その巨大な軍事力を背景に先制攻撃、あるいは予防攻撃をしてよいと判断してしまったのだ。国際連盟も国際連合も提案し、創設したのはアメリカだったというのに。国際組織は軍事力・経済力・文化力の3本柱で成り立つが、現在のアメリカは自国の軍事力だけを頼りに世界攻撃を暴走させている。
「米国製のモンスター」であるフセイン・イラク大統領。ある時にはアメリカの国策に利用され、ある時には逆手を取ってアメリカを利用したきた怪物。
振り返れば1979年のイスラム革命でイランにホメイニ政権が誕生した折、それまで親米王制国家であったイランが一転して中東随一の反米国家となるや、隣国イラクに同年誕生したフセイン政権に肩入れをしたのは、アメリカだった。イラン・イラク戦争(1980-1988)時に劣勢にあったイラクに莫大な軍事資金と生物・化学兵器を秘密裏に供与していたのも、アメリカだった。
ちょうどこの頃、バグダッドを訪問し、イラクとアメリカの外交関係再開に向けてフセイン大統領と取引をしていたのは、何を隠そう現ブッシュ政権最右翼の一人であるラムズフェルド国防長官だったのだ。しかしながら対イラン戦争を有利に終結させたフセイン大統領およびイラクが軍事大国化し、ペルシャ湾沿岸の覇権掌握を懸念したアメリカは、フセイン政権のクウェート侵攻を奇貨として、イラク封じ込めへと戦略を転換する。
イラクは豊富な石油資源を持ち、現在の確認埋蔵量は世界全体の約11%を占め、サウジアラビアに次いで世界2位だ。イラクは石油の最大埋蔵地域であるペルシャ湾の覇者となることを常々夢見てきた。
それはフセイン大統領個人の野望というよりも、イラクという国家そのものの野望なのだ。石油利権を巡っては、イラクだけでなくイスラム国家全体の問題であり、またアメリカを含めた先進国すべてはこの地域の石油利権をまんじりと狙っていることはもはや誰もが知っていることだ。
アメリカはこの攻撃が成功した後、太平洋戦争後の日本占領統治をモデルに、民主主義国家を設立する予定でいるが、これは決してうまくいくことはないだろう。イラクは大多数がシーア派のイスラム教徒だが、国内外にはイスラム主要勢力のスンニ派が存在する。北部に居住するクルド人もスンニ派だ。
それらの対立は根が深く、近隣諸国にはアラブ民族主義的な全体主義とイスラム原理主義的な全体主義という対立も存在している。また今回のイラク攻撃を巡って仏・独・露とアメリカの対立構造が露呈したことは、今後の国際情勢の予期できぬ不安定さを招いてしまった。高まる東欧へのアメリカの介入は、これまでの米欧関係を悪化させ、「西側諸国」と言う概念やNATO同盟の基盤も揺らがせている。
いずれにせよ、アメリカは朝鮮戦争・ベトナム戦争同様の無意味な軍事介入を行ってしまった。世界第1位の軍事力(第2位から第20位までの軍事力を足したものよりもさらに大きい!)を持つアメリカによってイラクは完全に制圧されるだろう。
しかしながら民主主義の理念を考えれば、今回の圧倒的な武力によるイラク攻撃は、アメリカという〈帝国〉の粗暴さを世界に知らしめただけでなく、本当の敗者が誰だったのかも世界に宣伝してしまったのだ。
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